大会長挨拶

第92回日本寄生虫学会大会を令和5年3月30日(木)から31日(金)までの2日間、金沢市の金沢歌劇座を会場として開催いたします。新型コロナウイルス感染対策を施し、すべてのセッションに現地対面(オンサイト)とWEB(オンライン)のどちらでも参加できるハイブリッド方式での開催とすべく準備を進めております。

日本寄生虫学会大会の金沢市での開催は、学会史上今回が初めてとなります。北陸三県では第49回大会(1980年吉村裕之大会長 山中町、現石川県加賀市)以来、43年ぶり2回目の久しぶりの開催です。本大会を主催する金沢大学は文久2年(1862年)に開設された旧加賀藩の“金沢彦三種痘所”をルーツとしています。当時猛威を奮っていた天然痘に対して、いち早く種痘ワクチンを取り入れ感染症対策を講じました。天然痘は1980年にWHOが世界根絶宣言を行った、人類が根絶した唯一の感染症と言われています。このように感染症対策・ワクチンと深い関わりを持った歴史があります。

寄生虫感染症において北陸地方は重要な位置にあります。日本屈指の漁場に恵まれており新鮮な海の幸の消費が多いため、鯖や鱈に寄生するアニサキス症、サクラマスに寄生する日本海裂頭条虫症、ホタルイカに寄生する旋尾線虫症等々の寄生虫疾患が珍しくない土地柄であります。大正〜昭和初期の北陸では土着の三日熱マラリアが蔓延しており、毎年1万人〜2万人の患者が報告されておりました。市民公開講座では、「北陸の海産物由来の寄生虫疾患」および「北陸のマラリア史」に関連した内容をご紹介いたします。

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は開発途上国向けの感染症の治療薬、ワクチン、診断薬の製品開発に対して投資を行う国際的な非営利組織で、寄生虫疾患に対しても日本発の新薬開発の推進を支援しています。GHIT Fundの新CEOとして感染症対策基金の戦略・投資を牽引している國井修博士をお招きして、感染症と戦い続けるGHIT Fundの使命についてご講演を頂きます。加えて、GHIT支援の前臨床段階から臨床試験に向かっている抗寄生虫新薬の最新研究を特別企画「ジャパン発 抗寄生虫新薬の前臨床〜臨床試験ステージ」として取り上げる予定です。シンポジウム「寄生虫の分子疫学」では、人獣から検出される寄生原虫に関連した分子疫学研究の近年の成果を取り上げる予定です。

今なお世界的な感染流行拡大を続ける新型コロナウイルスは、グローバルヘルスに多大な影響を与えるとともに、人々に感染症の脅威やワクチンの重要性をより身近なものとして強く印象付けました。コロナ禍を契機として、“顧みられない感染症”としての寄生虫疾病に人々の関心を向けるタイミングで、本大会を開催する意義は大変大きく、多くの方々が金沢に集う盛会となりますことを祈願しております。

金沢歌劇座は、金沢市の中心地香林坊から徒歩10分の大変便利な立地にあります。通りの向かいには特別名勝兼六園や前衛的な現代美術を収蔵した21世紀美術館が隣接しています。多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。

第92回日本寄生虫学会大会
大会長 吉田栄人
金沢大学医薬保健研究域薬学系 教授